2015年6月21日日曜日

海街diary

雨期。細かい雨が降ったり止んだり。夕方から海の近くまで。ユナイテッドシネマ豊洲で、是枝裕和監督作品『海街diary』を観ました。

鎌倉(最寄駅は江ノ電極楽寺)の古い日本家屋で暮らす三人姉妹が、父親の葬儀で出会った腹違いの妹すず(広瀬すず)を引き取ることに。夏に始まり夏に終わる、一年の物語。

是枝監督もこんなにやさしい映画を撮るんだなあ。すずが何かを初めて食べるとき、姉たちは一呼吸待って、すずの顔を覗き込む。小さな生命を慈しむその姿には心温まります。

監督はいつも家族をテーマのひとつに置いていますが、これまでの作品が家族だからこそ起こるディスコミュニケーションを描いていたのに対して、その部分は長女幸(綾瀬はるか)と実母(大竹しのぶ)との対立以外の場面では登場人物たちの内面に留められている。『そして父になる』では主人公たちとともに、血のつながりか、共に過ごした時間か、という選択に迷った観客たちを、この映画を作ることによって双方向に解放したかったのかもしれません。

そこで大きな役割を果たしているのが女優たちの生身の肉体です。特に次女佳乃を演じた長澤まさみがハリウッド女優並みのゴージャスなボディシェイプと自然で豊かな表情に露出の多い衣裳で画面に生命力を与えています。長い四肢を持てあますことなくしっかりコントロールする姿は観客の目からも気持ち良いものです。

三女千佳は夏帆(左利き)が演じています。吉田秋生原作漫画ではアフロですが、映画ではおだんご。誰よりも屈託がなくよく食べる。

そして広瀬すず。中学校の教室では大人びた憂いのある表情を見せるのですが、姉たちに囲まれると途端に幼い顔になる。映画撮影時と比べ現在は更に大人になっていますが、撮影中にもきっと成長したのでしょう。それを計算して撮ったのだと思います。あと少年サッカーのシーンでドリブルのキレが本物。惜しくもゴールには繋がらないがラストパスは左足インサイド(笑)。

鎌倉の四季、蝉時雨、紅葉、紫陽花。しらすを釜揚げするときの湯気、自転車二人乗りで桜のトンネルを駆け抜ける。どのシーンも写真集のような質感で美しい。脇役も端役もいちいち豪華な俳優陣ですが、みんなでこの四姉妹をサポートしてあげようという意思がスクリーンからはみ出してくる幸福な映画です。



2015年6月18日木曜日

Poemusica Vol.41

夏至の4日前。茶沢通りから一本裏の緑道にクチナシの花の甘い香りが漂っています。下北沢 Workshop Lounge SEED SHIPで41回目のPoemusicaが開催されました。

澤寛子さんの歌を初めて聴きました(動画サイトにもほとんど情報がありません)。小柄で華奢なショートカット美少女が全身を使って絞り出すように歌う姿に、胸の底にある何かが震えました。ガットギター友宗敢さんのサポートもよく歌声に寄り添い、正確かつエモーショナル。今年、活動の拠点を大阪から東京に移し、より多くの聴き手を得ることでしょう。

ヴァイオリン・インストゥルメンタルのあすなさん(画像)。ピアノはモチヅキヤスノリさん。普段はシンガーのサポートにまわることが多いというあすなさんですが、センターとしての華やかさを持っています。ヴァイオリンの音色がキラキラと躍動し、溌剌と演奏する姿と相俟って、聴いているこちらが自然と笑顔になってしまうような陽性の魅力があります。

臼井ミトンさんはぐっと渋く。ギターとピアノを両方弾くシンガーとは何度か共演していますが、彼の音楽は普通とは逆に、ギター曲がメロウでドラマチック、ピアノ曲がアップテンポでグルーヴィなのが面白い。サウスポーのアスリートを観る面白さと似ているような気がします。楽器演奏や歌唱をまずフィジカルなものとして捉えているのも信頼が置けるところです。

僕は、オープニングに「」、"Unversal Boardwalk"より「六月」、夏至の一日を描いた「ガーデニア Co.」、あすなさんの前に「」「新しい感情」、最後にラングストン・ヒューズの「もの憂いブルース」(斉藤忠利訳←高校の大先輩です)のカバーでミトンさんにバトンを送りました。バラエティに富み且つバランスの取れた、Poemusicaらしい夜になったと思います。

7~8月はPoemusicaはお休みして、そのかわり詩の教室と句会をします。次回Vol.42は9月21日、祝日の昼間のPoemusica。独自の視点で個性的な音楽を創造している女子SSW3組を招いてお届けします。どうぞお楽しみに!

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Poemusica Vol.42 ポエムジカ*詩と音楽の午後

日時:2015年9月21日(月・祝) Open12:30 Start12:50
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
    yoyaku@seed-ship.com
料金:予約2,300円・当日2,500円(ドリンク代別)
出演:mayuluca (vocal/guitar)
    エリーニョ (vocal/piano)
    中田真由美 (vocal/guitar)
    カワグチタケシ (PoetryReading)

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2015年6月7日日曜日

朗読の時間

高円寺純情商店街の突き当りを左へ、庚申通りの店先に亀のいる不動産屋の少し先の狭い路地を入ったところに大陸バー彦六があります。開店前の扉を開けたら、ザ・レジデンツがかかっていました。

入梅前夜。朗読の時間。蛇口さんにお声掛けいただいて、5年ぶりに詩人だけのブッキングライブに出演しました。

桑原滝弥さん。18歳の大晦日に男女4人で初めて東京に遊びに来た話から一気呵成に怒涛のリーディングへなだれ込む。虚実ないまぜのモノローグと独りコールアンドレスポンス。暴力的に声を荒げるほどに、冷徹な構築性が覗く。シアトリカルな話芸。言葉と声の質量と密度で息苦しいまでに場を圧倒する力は業界随一です。

変わって石渡紀美さんは乾いた声質で、静謐な抒情を淡々と綴る。初期作品のペーソス滲む作風。普通の単語を整ったシンタックスを用いて並べているのに、なぜか独特過ぎる言語感覚。プリシラ・レーベル最新詩集『十三か月』の作品は本人曰く「花鳥風月」なのに、自己対象化がひと回りして読者/観客をも対象化してしまいます。

蛇口さん(画像)の朗読の面白さを形容するのは難しいです。説明するのは難しいけれど、いやがうえにも面白い。エロいことを言っても全然エロくないし、韻を踏めば踏むほど言葉遊びから離れていく。よれよれしているのにそれが逆にグルーヴになる。テンポがないのに音楽的。そして愛すべきダメっぷり。事実彼ぐらい言葉に愛されている男を僕は知りません。相思相愛に違いない。

狭い店内がなんだかよくわかんない空気に包まれ、つられて僕も変なテンションに。3年前の6月5日に亡くなった作家レイ・ブラッドベリの短編小説「万華鏡」を挟んで、「無題(世界は二頭の象が~)」「ANGELIC CONVERSATIONS(不完全ver.)」「Planetia(惑星儀)」「雨期と雨のある記憶」「すべて」「We Could Send Letters」の6篇を朗読しました。そう、最近ようやく自分をコントロールしない術を身に付けたような気がします。

滝弥くんが、この4人は全員2000年の夏に出会った、と言っていましたが、そのひとりひとりと最初に会った日のことを僕も憶えています。15年後にまた集まったら楽しいことでしょう。15年後もこの4人はきっとそれぞれ別々に詩を書いて朗読していることでしょう。