2014年10月10日金曜日

風の舞

もう15年以上お世話になっているというのに、JAZZ喫茶映画館で映画を観るのははじめてです。ここのマスターはドキュメンタリー映画を撮っているのですが、その先輩格にあたる宮崎信恵監督の2003年作品『風の舞』の一夜限りの上映会に行ってきました。

昨年亡くなった詩人塔和子さんは1929年愛媛県生まれ。12歳でハンセン病に罹り、83歳で亡くなるまで瀬戸内海に浮かぶ小さな島の療養所大島青松園で暮らした。H氏賞に3回ノミネートされ、1999年には高見順賞を受賞しています。病いや謂われのない差別に対して声高に叫ぶことはなく、明快で新鮮な語彙で淡々と生を綴っています。

非常に感染性の低いウィルスでありながら、外見に大きなダメージを与えることから、らい予防法と根強い偏見により、多くの自由を奪われた状態で隔離されたハンセン病患者。現在では薬物投与で完全に治癒します。その過酷な生活と解放の歴史、そしてひとりの詩人の足跡を描くドキュメンタリー作品です。

「1日に3つ書けることもあれば、1つも書けないこともある。詩の神様は気まぐれやね。でもその気まぐれが魅力的なのね」。

映像で一番印象に残ったのは教会のシーンです。ハンセン病療養所には必ず各宗派の寺院が設置されている。それは政策的な意図を持つエスケープポッドだったのかもしれませんが、祈りを捧げる患者たちの姿は美しく、高い窓から射し込む陽光に救いを見ました。

上映後、小夜さん(画像)が塔さんの作品を朗読しました。映画の中の吉永小百合さんの安定感のある朗読とはまた違って、塔さんのテクストの裏側にある呼吸の揺れ、不規則な律動を浮かび上がらせるような素晴らしい朗読でした。

最後に監督のトークで、晩年の塔さんの人間臭いというにはあまりにも生々しい一面が垣間見られました。天才とは実生活においてはかくもはた迷惑な存在なのか。繊細で美しい作品群の通奏低音としてのディーモン。だからこそ作品の美しさが際立つのかもしれません。

タイトルになっている「風の舞」とは、かつて島中に打ち捨てられていた患者の遺骨を集めて制作された巨大な円錐状のモニュメントの名前です。

 

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