2012年12月24日月曜日

サウダージな夜 第25夜

去年につづき、クリスマスイブは古書ほうろうへ歌姫の声を聴きに行きました。普段は毎月最終金曜日の夜に開催されている吉上恭太さんのインストアライブ『サウダージな夜』。今夜は特別編です。

まず吉上恭太さんがひとりで2曲。恭太さんのソフトタッチな歌声とギターはボッサ・テイストですが、今日はギブソンのスチール弦ギター。ボルサリーノを斜にかぶりタートルネックのモスグリーンが書棚に映えます。

次に末森英機さんが登場して、宮沢賢治作詞作曲「星めぐりの歌」からはじまり「大きな古時計」に終わる4曲のメドレー。こちらはマーチンのヴィンテージギターです。

ゆるさは、女性ボーカル、アコギ×2、アップライトベース、メロディオン(SUZUKI製、ピアニカはYAMAHAの商標です←どうでもいい豆知識)の5人組。名前の通りゆるい演奏です。でもメロディがとても良くて聞かせる。披露した3曲「ほうじ茶ワルツ」「シモキタジョージ」「寝たくない夜」はいずれも名曲です。さんざんメンバーにいじられていましたが、ベースの中野さんがはじくタイトなリズムが存在しないはずのキックを幻聴させ、このバンドのサウンド面のキモになっています。ボーカルのあまのさん作のはんこをフィーチャーしたウェブサイトも超チャーミング。

吉上さんが再び現われて、ゆるさをバックに3曲。谷根千界隈や古書店をモチーフにした「ほしどろぼう」「ほんとうたと」「ほたる」。ゆったりと。まったりと。

そして歌姫、中村加代子さんが登場。4曲のカバーソングは、Ruth Brown "Lucky Lips"、雪村いづみ「ケ・セラ・セラ」、Petula Clark "Downtown"の中国語バージョン、Mel Torme "The Christmas Song"。中村さんは日本と台湾のハーフなのですが、中国語で唄うのは今夜がはじめて。少し紅潮したつやのある頬、くるんとカールした長いまつげと薄茶色の大きな瞳、静かな笑みをたたえた口元。誰もがその容姿に魅了されると思います。彼女の落ち着いたアルトの声が、平熱のまま観客を包み込み、古書店内にいた全員が幸福な気持ちになりました。

中村さんの歌をはじめて聴いたのは昨年の同じ日、同じ場所。彼女が前回人前で唄ったのもその夜。一年に一度しか聴けない歌姫の歌声が聴ける奇跡のような夜でした。


2012年12月23日日曜日

恋のロンドン狂騒曲

朝は曇っていた東京にも午後からすこし日が差してきました。そんな三連休の中日。日比谷TOHOシネマズ シャンテで『恋のロンドン狂騒曲』を鑑賞しました。ウディ・アレン監督作品は半年前に『ミッドナイト・イン・パリ』が公開されたばかりですが、本国アメリカでは『恋のロンドン狂騒曲』が先に公開されています。

 「人生は単なる空騒ぎ。意味など何ひとつない」という台詞を引用して始まるこの映画。シェイクスピアの『マクベス』を一応下敷きにしているらしいのですが、まったく原型をとどめていません。

ロンドン市内を舞台に、アンソニー・ホプキンスジェマ・ジョーンズの英国人夫妻、その娘ナオミ・ワッツと夫ジョシュ・ブローリンという二組のカップルを軸に、周囲を巻き込んで、惚れたの腫れたの、くっついたり別れたりするコメディです。

ウディ・アレンの映画はいつも、アッパーミドルクラスのしょうもなさを皮肉と愛情を込めて描いています。自分の老いを受け入れられないアンソニー・ホプキンスは、いつもラルフ・ローレンのオフホワイトのセーターを粋に着こなしている。離縁された妻ジェマ・ジョーンズはニュー・サイエンスというか、スピリチュアリズムに嵌る。このふたりが映画の他の登場人物たちをイラッとさせまくる。その姿に映画館が爆笑するという。

『ミッドナイト・イン・パリ』のような荒唐無稽さや、『ブロードウェーと銃弾』みたいな事件は起きないけれども、テンポのいい編集と熟練の演技で魅せる上質な大人の台詞劇といっていいんじゃないでしょうか。

この映画のいちばん良いところは上映時間。98分。これ以上でも以下でも成り立たない。物足りなさと腹八分目のぎりぎりのバランス。ウディ・アレンのほかの映画にも言えることですが、このやや短めの上映時間が、映画そのものの品の良さにつながっていることは間違いないです。二本立てとか、いろいろな要因があるにせよ、日本のかつての喜劇映画の傑作にも90分前後の作品が多かったのは偶然ではないと思います。


 

2012年12月21日金曜日

Poemusica Vol.12 ~音の葉・言の葉・柊の葉~

冬至。一年で一番夜の長い日。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPにて"Poemusica Vol.12 ~音の葉・言の葉・柊の葉~"が開催されました。

はらかなこさんのはつらつととしたピアノ。両手のバランスがとてもよく、明るくクリアな音色です。音がきれいなだけではなく、演奏する姿にも、MCにも、音楽が楽しくてたまらないという様子が客席に直接伝わってきました。クラシックをベースに、ジャズやR&Bのエッセンスを器用に取り入れた作曲スタイルにも品があります。かと思えば、観客に打楽器を配り、iPodに仕込んだドンカマに乗せて、右手でピアニカ、左手でピアノのベースラインを弾くクリスマスソング、WHAM! "Last Christmas"で会場を盛り上げるエンタテイナーぶり。楽しませてもらいました。

平井真美子さんは、Vol.2に続きPoemusicaには二度目の登場です。はらかなこさんの音大の先輩にあたりますが、実はこの日が初対面。同じピアノでも弾き手によってこれほどまでに音色が違うのか。一音一音に込められた感情が会場全体を覆っていく感じがしました。音を澄ませるところ、あえてぶつけたり、濁らせたりするところ。しっかりした技術と明瞭な意思に裏付けられているからこそ、弱音でも強音でも、はっきり伝わってくる。はらかなこさんが客席からその手元をガン見していたのが印象的でした。憧れとライバル心と。オルガニート(パンチカード式手回しオルゴール)2台でLittle Woodyとデュオ演奏した「きらきら星」もチャーミングでした。

そして、3か月ぶりにアニメーション作品で参加したLittle Woody。「(ねこのやつ)」「タコ兄弟」「Teeth War」という鉄板ネタに、今回新たに加わった「バラ王子」。頭にバラの花を乗せた王子が忍びの者に双子の兄を探させるというストーリーです。この新キャラがマジキュート。話もシュールで、画と台詞使いとに、あっけらかんとしたユーモアとインテリジェンスがにじむ、とても楽しい作品なのですが、その面白さを言葉で伝えられないのがもどかしい。会場に来てください!としか言いようがない(笑)。

僕はクリスマスにちなんだ詩を2篇。「(タイトル)」は、はらかなこさんに、「クリスマス後の世界」は平井真美子さんに、それぞれピアノの伴奏をつけてもらい朗読しました。それぞれの個性が出た素敵な演奏で、自分が朗読しているのを忘れて、マイクの前で聴き入ってしまいました。いつもより朗読に間合いが多かったとしたらきっとそのせいです(笑)。

当初予定されていたSoul Color(=Wyolicaのギタリストso-toさん) が体調不良により残念ながら欠場してしまいました。結果、ピアノソロのインストゥルメンタル2組と映像ということで、言葉を発するのは僕ひとり、とやや気負って会場入りしたのですが、全くの杞憂に。かなこさんも真美子さんもWoodyも、作品とパフォーマンスが言葉以上に雄弁に語っていました。

これで僕の2012年のライブはすべて終了しました。Poemusicaを一年間続けてきて、僕自身パフォーマンスの面で成長できた実感があります。忙しい平日の夜に会場に足を運んでくださったお客様、それぞれの場所で気にかけてくださったみなさん、このブログをいつも(ときどき)読んでくださった方々、素晴らしい共演者たち、SEED SHIPの土屋さん、ありがとうございました! Merry Christmas & Have a nice holiday!

そして、Poemusicaは2013年も続きます。新年スペシャルは本当にスペシャルなブッキングです。出演者6組はPoemusica史上最多。是非遊びに来てください!!

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Poemusica 新年スペシャル!
日時:2013年1月17日(木) Open 18:30 Start 19:00
会場:Workshop Lounge SEED SHIP
    世田谷区代沢5-32-13 露崎商店ビル3F
    03-6805-2805 http://www.seed-ship.com/
料金:予約2,000円 当日2,500円(ドリンク代別)
出演:
   平井真美子 *音楽  
   小野一穂 *音楽 
   島崎智子 *音楽 
   市川セカイ *音楽 
   Little Woody *アニメーション  
   カワグチタケシ *ポエトリー

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2012年12月12日水曜日

マンダラ2でワンツーワンツー!vol.2

2012年12月12日。気前良く数字が並んだ水曜日。吉祥寺MANDA-LA2へ。10月にアカリノートさんのライブイベント「あのかぜのゆくえ」で共演したmueさんが主催する『マンダラ2でワンツーワンツー!vol.2』に行ってきました。

この日mueさんはふたつのバンドセットで登場。まず、ら・ら・ら。ジャンベ/ガットギターの奈良大介さん、カリンバの小池龍一さんとのトリオです。ソロのときよりも若干ユルめの演奏。ネオ・ヒッピー・テイストのアフリカン・グルーヴが加わり、シンプルで空洞感のある音楽をにぎやかに奏でます。

それぞれが普段はソロで活動しているこのトリオは、誰がリーダ-という風ではなく、全員が曲を書き、リードボーカルをとります。歌詞もおおらかな感じ。小池さんのエレクトリック・カリンバ(親指ピアノ)が効いていました。もうすぐ出るファースト・アルバムからの8曲。奈良さんの8歳の息子さんが小さな手でジャンベを叩く姿に客席もほのぼのあたたまります。

そして、セカンドセットはmue。「あのかぜのゆくえ」では弾き語りでしたが、今夜は熊谷大輔さん(dr)、chubby!さん(b)と、こちらもトリオで。このリズムセクションが強力でした。キックとベースががっちり合って、そこにふんわりと乗るmueさんのギター。その歌声はまるで寒い朝に供される温かいポタージュスープのよう。 小柄で愛くるしいビジュアルと相俟って、会場全体を包み込む。

最近は自分から出てくるものを素直に歌にしているというmueさん。理不尽な想いや怒り。ネガティブな感情を唄うときも、けっしてとげとげしくなることはなく、世界に対する異議申し立ての仕方がとてもエレガントだな、と。サイケデリックな浮遊感のある新曲も素敵でした。

ゲストの田野崎文さん富山優子さんとのデュエットも、所謂イベントライブのセッション的なものではなく、とてもこなれたクオリティの高いもので、そんなところからも彼女の音楽に対する真摯な姿勢が心地良く伝わってきます。

MANDA-LA2にはグランドピアノがあるのですが、この音色も三者三様で面白かった。すきまが多いのにまっすぐな演奏をする田野崎さん。ひんやりと明晰なタッチの富山さん。輪郭のくっきりしたギターと同じ指で弾かれるmueさんのピアノはなんていうか、いい感じにくぐもっているんですよね。それはまるで、濃い霧の中を漂っているような。

最後に出演者全員で演奏したサンバ、「東京の夜」では、mueさんの身体能力の高さを存分に堪能。

毎年12月12日に開催されるこのライブ。来年は木曜日です。いまから楽しみがひとつ増えました!



2012年12月8日土曜日

砂漠でサーモン・フィッシング

東京はよく晴れた小春日和。丸の内ピカデリー1にラッセ・ハルストレム監督の新作『砂漠でサーモン・フィッシング』を観に行ってきました。前作『親愛なる君へ』から1年ちょっと。コンスタントに作品を発表しています。

英国大好きな中東の大富豪(アムール・ワケド)の代理人(エミリー・ブラント)が、ロンドンの水産学者(ユアン・マクレガー)に依頼したのは、イエメンの砂漠に作った人工河川でフライフィッシングできるように、鮭を自生・遡上させること。

気温、水温、水質、餌などの面から不可能であると判断し、一旦は断るが、国際政治上の要請と内閣広報官(クリスティン・スコット・トーマス)の策略によって巻き込まれ、気づくと荒唐無稽な夢の実現を信じて奔走していた。

理論的には可能(theoretically possible)というのが、この映画にはキーワードとして何度も登場します。理論的には可能だが、現実的には不可能と思われること。それを可能にするための莫大な富と、人を動かす信念。

ハルストレム監督はスウェーデン人ですが、この映画はBBC制作。良くも悪くも英国映画という感じがしました。抑制の利いたユーモアがあり、礼儀正しくて、枠からはみ出ることがない。『リトル・ボイス』(1998)や『キンキー・ブーツ』(2005)の感触に近いものがあります。変な人は出てくるのですが、妙にお行儀が良くて、落着きがある。

それが逆に、この映画の弱さになってしまっていると思います。大富豪はスコットランドの山間部に別荘をかまえ、イエメン人の守衛たちにキルトの制服を着せたりと変なところがあるのですが、何百万ポンド(数十億円)もかけて砂漠にダムを築き、一万匹の鮭を空輸するという割には、目つきに狂気が見えないんですよね。ユアン・マクレガーにしてもそれは同じ。

クリスティン・スコット・トーマス演じる高級官僚の俗物ぶりは笑えます。得票数目当てに全国200万人の釣りファンをゲットとか。あとね、戦争はいかんなあ、と思いました。恋人が戦地で行方不明なんて、想像するだに辛すぎる。その戦地がどこなのかってことも軍事機密で明かされない。そういう意味では、日本で今日公開されたのはタイムリーなのかもしれないです。


2012年12月1日土曜日

あすあづ&もぐらが一周するまで with TOGI☆LIVE!!

空気が乾燥してきました。風邪をひいたりしていませんか? 12月最初の土曜日は外苑前のギャラリーneutron tokyoへ。三尾あすか&三尾あづち 双子の姉妹展 2012 with friends 「Somewhere in nowhere ~どこでもないどこか~」に伴って開催されたライブペイントを観に行ってきました。

もぐらが一周するまで」はギタリスト佐藤亘氏の大量のエフェクターにつながれたフェンダーテレキャスターとトギリョウヘイ氏のジャンベ、シェイカーによるアナログ・チルアウト・ミュージック。Vini Reillyをもっと現代的にシャープにした感じといえばいいのかな。その演奏に乗せて姉妹がギャラリーの壁面に絵を描く約60分のライブパフォーマンス。

まず妹のあづちさん(左利き)が油性マジックで部屋のパースペクティブのような斜線を引き、仮定された床に赤いしみが広がる。姉のあすかさんは植物の生長を床面から上方へと伸ばします。そして幅の広い刷毛に持ち替えて、鮮やかな色彩と面が加わり、おばけ、骸骨、十字架、恐竜。危ういキャラクターが現われては塗りつぶされるうちに生じる激しい混沌。

あづちさんがアクリルを塗りこめ、そこにあすかさんが文字を重ねることで全体に秩序を与え、混沌を収束させていく。ふたりともとにかく手が速く、ライブならではのスピード感と偶発性を多分に感じさせる。協力というよりも対話のなかで衝突と和解を繰り返すような。

いままで彼女たちの完成した作品しか観たことがなかったのですが、あの透明な謎に満ちた色彩の重層は、このようなプロセスを経て誕生するのだ、ということがわかったのはうれしい発見。また、描くふたりの動きに無駄がなく、まるでコンテンポラリーダンスのような美しさがあります。

「あづが手のひらで描きはじめたのが可笑しくて、笑っちゃって」と、終演後にあすかさんが自身も笑いながらおっしゃっていました。実際描いているあいだも、時々小さな声で会話があり、しかめつらや笑い声もある。

今回のライブで特に印象に残ったのは、画幅に言葉を描き込むことによってパフォーマンスを終わらせたところ。エンドロールのような役割もあるのだとは思いますが、寡黙なふたりがその内側に押し込めたイメージを線や色彩だけでなく言葉(文字)も用いて表出させていることに現代性を強く感じました。

関西で活躍する新しい美術作家を紹介してきたneutron tokyoですが、ギャラリーとしての機能を今年末で一旦終了させるそうです。たくさんの素晴らしい作品・作家との出会いに、この場を借りて感謝したいと思います。