2016年3月27日日曜日

朗読会@maruchan

山手線の座席の背中に注ぐ春の日差しがまどろみを誘う。駒込駅からアザレア通り商店街を抜けて2本裏通りにある昭和モルタル建築のヴィンテージ集合住宅マルイケハウス。急な外階段を上って突き当りがちょこっとカフェギャラリーmaruchanです。

個人経営の小さなお店だからこそのアットホームで上質なイベントを組んでおり、昨年3月には青柳拓次さんのライブに行きました。

そこ不定期開催されているオープンマイク「朗読会@maruchan」。主催者でDJでもある松澤翼さん(画像)が去年の1月に続き再びゲスト出演のオファーをくださいました。

靴を脱いで上がるこじんまりとした部屋で、参加者ひとりひとりのマイクを通さない生の声に耳を澄ます静かで豊かな時間。お気に入りの詩集や小説の一節、絵本、多くを語ることはなくとも、声の響きから手にしたテクストに対する愛着が伝わってきます。

朗読というのは不思議な表現です。文字と声さえあれば誰でもできる。メソッドが確立している歌唱や演劇とは違い、技術や技巧が問われない。逆に技術や技巧を伴わないところに感動が生まれることが多い。

たとえばこの日、ご自身のライブの前に立ち寄ってくださったノラオンナさんはミュージシャン/シンガーとしては一流の技術を持つ方ですが、自作曲の歌詞の朗読は含羞に満ちた、敢えて言うならたどたどしいものでした。それでも声を通じて詞の対象への愛情が歌以上に直接届く。そういう意味では読み手を聴き手という立場を超えた、会話/対話に近い感覚なのかもしれません。

僕は2セット、計30分をいただき、前半は自作詩「Doors close soon after the melody ends」「International Klein Blue」「コインランドリー」「すべて」「新しい感情」の5篇を、後半はカバーで究極Q太郎「幾千もの日の記憶」、カオリンタウミRumbling In The Rain」、宮澤賢治告別」、Aztec CameraWe Could Send Letters」を朗読しました。

maruchanは店主の芳賀千尋さんが長い旅に出るため(いまはネパールにいらっしゃいます)、しばらく休業します。再開した折には是非またお邪魔したいと思っています。

 

2016年3月21日月曜日

BOOKWORM at Pompon Cakes

鎌倉の桜は三分咲き。観光客でごった返す駅前から長谷を抜けて、梶原口の閑静な住宅街にその店はあります。Pompon Cakes はオーガニックでジャンクなアメリカンスタイルのケーキ屋さん。あたたかな春先の祝日の午後にBOOKORMが開かれました。

詩のオープンマイクはたくさんありますが、大抵は読み手の気持ちが強くて、どちらかというと一方通行になりがち。BOOKWORMの良いところは「言葉をシェアする」というコンセプトを参加者全員で育てているところだと思います。

この日は19人がマイクに向かいました。印象に残ったのは、フアン・ラモン・ヒメネスウンベルト・サバの詩を朗読した土屋由美子さん、遠藤コージさんの尾道の話とボトルネックギター演奏、Jonathan Leask氏の日記体/オノマトペ詩作品の緻密に計算されたユーモア、山﨑円城さんのボブ・ディラン "All I Really Want To Do"、等々。

なかでもカズエさんが南米の盆踊りの新聞記事から引用し、現代日本の盆踊り事情に重ねた体験談は、BOOKWORMの理念でもある「人は自分の好きな物について語る時、 とても上手く語る事が出来る」というミヒャエル・エンデの言葉を体現していました。

そして最後にマイクを握った店主レオくん(画像)の挨拶が素晴らしかった。「ただ商品を提供するだけではなく、人々が集まり交差する場になりたい」。ネットで何でも手に入る時代のリアル店舗のあり方として、コミュニティに愛される場を目指す。イベントの最中も地元の顔馴染みが途切れずに訪れる様子に、その実現が伺われます。

僕は、カワグチタケシ(同姓同名の別人です)『女王陛下の補給線』(講談社KC)、カリル・フェレマプチェの女』(ハヤカワ・ミステリ文庫)、オリヴァー・サックス音楽嗜好症: 脳神経科医と音楽に憑かれた人々』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、3冊の本を紹介しました。


 

2016年3月20日日曜日

家族はつらいよ

春分の日は晴天。ユナイテッドシネマ豊洲で、山田洋次監督作品『家族はつらいよ』を鑑賞しました。

2013年の『東京家族』から、橋爪功吉行和子の老夫婦と三人の子どもたち、西村雅彦中島朋子妻夫木聡、その配偶者・恋人に夏川結衣林家こぶ平蒼井優、という基本的な家族構成はそのままに、しかし設定を大きく変えて。渥美清のようなアウトサイダーこそ登場しませんが、タイトルどおりの喜劇映画です。

スモーク』に対する『ブルー・イン・ザ・フェイス』みたいなもの、と言っても、ポール・オースターのファンにしか通じないか(笑)。

むしろそのウェルメイドな感触はウディ・アレン。ただし小洒落たところはありません。「お茶」と言えばお茶が出てくる、「タバコ」と言えばタバコが差し出される。既にノスタルジーの中にしか存在しない古き良き頑固おやじ像。この映画がヒットしているのは、中心的な観客層である60~70代がそのような保守的な家族観に対する憧れをどこかで捨てきれないからなのだと思います。

夫婦は常に対立し、感情がすれ違い、時にいさかいが生まれる。それが笑いを生むのですが、一方でその連鎖に疲れたところに、妻夫木聡と蒼井優がフレッシュな空気を吹き込む。このへんのバランス感覚も実に計算されています。

市民会館の警備員役の笹野高史が僕的にはベストアクト。出演時間は短いですが、フィジカル面においてもスラップスティックを見事に演じており、コメディセンスとは真に選ばれし者のみに与えられる恩寵なのだなあ、と思いました。

 

2016年3月6日日曜日

Poemusica Vol.47

3月初旬としてはあたたかい曇り空。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPでPoemusica Vol.47 が開催されました。

桂有紀乃さん。Poemusicaにご出演いただくのはVol.2643に続いて3回目です。彼女の歌を聴いて感じるひりひりしたものと大きな愛情。有紀乃さんを衝き動かしているもの。あえてクリシェ(常套句)を積極的に用い、そこに真実の響きを与える歌声の切実さがあります。いつもお菓子を手作りしてきてくださいますが、この日はシナモンの効いた金柑のタルト。みんなで美味しくいただきました。

高校の卒業式を2日後に控えた梨帆さん。対照的にクリシェを意識して回避するタイプのソングライターです。初期RADIOHEADを想わせるスケール感のある楽曲に乗せる歌詞は10代のリアルな感情。身の回り数メートルから発して、広く普遍化させる声の力がある。特に高音の瞬発力は抜群。今は若さの勢いに任せたようなところがありますが、それでいいのだと思います。

新大阪からこだまに乗っていおかゆうみさん(画像)が唄いにきてくれました。彼女も3度目(Vol.2931)、2年ぶりのPoemusicaです。その間、別の会場で(時にはホーム大阪で)何度かライブを観ていますが、毎度成長に驚かされます。今回はスローで静謐な曲を中心にしたセットリストでした。一音一音がとても丁寧な演奏で、しかもフレッシュさ、危うさを保っているのが素晴らしいです。

おつかれーずさんはVo&Gt杉本拓朗さんのソロユニット。歯切れの良いロックンロールと抒情的なミドルテンポナンバーを抜群の声量とテンションで唄い上げます。18歳の梨帆さんに触発されたのか、MCは杉本さんの10代の頃の修羅場恋バナに(笑)。サポートで入った鎌田瑞輝さんのピアノがリリカルで美しかった。

この日はSEED SHIPがオープンしてちょうど5年。2011年3月6日、東日本大震災の5日前のことです。その頃のことを思い出しながら「Doors close soon after the melody ends」「ANGELIC CONVERSATIONS」「コインランドリー」「We Could Send Letters」の4篇を朗読しました。「We Could Send Letters」は、2011年3月20日、はじめてSEED SHIPに出演した際に朗読した訳詞です。

SEED SHIP5周年おめでとうございます。開店した2011年の12月から始まったPoemusicaもお店と共に歩んできました。店主土屋さん、スタッフわかちゃん、お客様と共演者の皆様、いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


2016年3月5日土曜日

春待ち遠しい音楽会+お食事会

JR中央線西荻窪駅北口を出て女子大通りを西へ。ちょっと不安になるぐらい歩くとそのお店があります。ブラジル料理の名店カフェcopo do diaさんで、まえかわとも子さん(左利き)、RINDA☆さん尾花毅さんご出演のライブ『春待ち遠しい音楽会+お食事会』に参加しました。

まえかわさんアカペラの新曲『田植えうた』で始まったこのライブ。一昨年、西伊豆松崎町に転居し、農業を始めたまえかわさんが自分で収穫したお米を握ったおむすびが付いています。お米だけではなく、お野菜も松崎町のご近所さんから分けてもらったもの。それら土地の恵みをcopo do diaの伊藤シェフが素材を活かして手際よく調理し、音楽と共に味わうという好企画。

まえかわさんの歌声の素晴らしさは繰り返し書いていますが、ギターの腕も上げたなあ、と思いました。従来のアルペジオ主体のアンビエントなスタイルに加え、しっかりとしたストロークでリズムを組み立てられるようにもなっていました。尾花さんとのギター2本の絡みも美しかった。

パンデイロとピアニカのRINDA☆さんは終始笑顔で正確無比なグルーヴを叩き出し、尾花さんのパッショネイトな7弦ギターが会場の温度を上げる。終盤には、まえかわさんとRINDA☆さんも参加しているBanda Choro Eletricoのスルド奏者ちっちさんが客席から加わり、大きな掌でゆったりたっぷり会場を揺らす。

まえかわさんとRINDA☆さんのオリジナル曲に定番のMPBカバー、加えて僕の訳詞集からFairground Attraction "Allelujah" を歌ってくれたのもうれしかったです。

良い音楽と美味しいお料理があれば、お酒も会話も弾みます。タイトル通り、春の訪れを告げるような素敵な夜になりました。