2016年4月21日木曜日

詞集「君へ」 ~ノラオンナ50ミーティング~

雨が降って、街はすこしずつ春から初夏へと向かっていきます。吉祥寺STAR PINE'S CAFEで、ノラオンナさんのアニヴァーサリーライブ『詞集「君へ」~ノラオンナ50ミーティング~』に参加しました。

今年50歳を迎えてなおチャレンジを続け、クオリティの高い音楽を創造しているノラオンナさん。ひとりの音楽家の半生を綴る長編舞台作品のような濃密な感触のライブでした。

第1部の幕開けは13歳のときに初めて作った歌「夜明けまで口笛」。ウクレレ弾き語りで9曲。静寂と緊張。そこに見田諭さんのギターのブライトなトーンが光を与える。

第2部はガットギター古川麦さん、ピアノ森ゆにさんとのデュオ。コーラスほりおみわさん、パーカッション/コーラスおきょんさんが加わり4声のハーモニー。そしてワタナベエスさんくものすカルテット)のフレットレスベース、田辺玄さんWATER WATER CAMEL)のグレッチ、港ハイライトのドラムス/パーカッション柿澤龍介さんとアコーディオン/ピアノ藤原マヒトさん。麦くんはデュエットボーカルにトランペットにとマルチな才能で魅せ、おきょんさんのゆるふわグルーヴが無骨なリズムセクションを優しく覆う。

3時間半、32曲。アンコールの最後にまたウクレレ弾き語りに戻り、ひとりでピンスポットを浴びながら歌う「やさしいひと」。独りで始め、パートナーを得て、パーマネントなバンドに多彩なサポートを加え、最後はまたひとりに。そんな覚悟さえにじませる姿は清々しく見えます。

ノラさんは作家性の強いソングライター。その歌は基本的にフィクションだと思います。が、ライブはドキュメンタリー。十代の作品も新曲も現在のクオリティで演奏するわけで、そこに生まれる捻じれが熱となって客席を包む。いま目の前で演奏されている音楽に、過去と現在の音楽人生を二重映しにし、エレガントな手際でメタフィクション化してみせました。

ノラさんは楽曲のアレンジに関して一切注文がない、と詞集のコメントに柿澤さんとマヒトさんが奇しくも寄せています。でもできあがったものは紛れもなくノラさんの音楽になっている、と。コントロールしないことでコントロールする。ノラオンナ・ミュージックかくあれかし、というメンバーや観客の集合的無意識に働きかけて個々のポテンシャルを引き出しているのではないか。その総体としての発現がライブという形式を取って展開されているように僕には感じられました。

僕は今回、ご来場者特典の冊子『詞集 君へ』の装幀と製本を担当しました。装幀とはフィジカルなもの。ページをめくる指の触覚と文字を追う視線の動きをテクストに寄り添わせる。1曲の歌詞が滑らかに読めること、曲間の無音部分を際立たせること、それがノラさんの音楽に最適と考えて制作しました。

各々の事情を抱えつつ今夜の公演を楽しみにご来場になったお客様全員に、入り口で一冊ずつ手渡しするのも楽しかったです。このような機会をいただけたことを心より感謝いたします。



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