2012年7月29日日曜日

グスコーブドリの伝記

来月のフィクショネス文学の教室の課題図書は、宮沢賢治グスコーブドリの伝記」。便乗して僕が講師を務める詩の教室も宮沢賢治の晩年の詩作品『疾中』から紹介します。ということで夏休み。ユナイテッドシネマ豊洲杉井ギサブロー監督作品『グスコーブドリの伝記』を鑑賞しました。

主人公グスコーブドリはグスコーが姓でブドリが名。イーハトーブの森に住む木こりの息子。冷害の年に家族を失い、いくつか職を転じながら都市へ。最後は火山局の技師になり、身を挺してイーハトーブを冷害から救う。

文庫本でわずか50ページあまりの物語を90分の映像作品に仕立てているわけですが、原作から差し引かれたシーン、足されたシーンがあります。宮沢賢治の作品はどれも説明的な描写を省く傾向がありますが、脚本と映像で補完して、子供が観ても容易に理解できるようにしてあります。そのため、原作にはない台詞が出てきますが、さすが天沢退二郎監修だけあって、いかにも宮沢賢治作品の登場人物らしい言い回しになっています。

国語の授業のシーンで桑島法子さんが「雨ニモマケズ」を朗読したり、銀河ステーション(原作ではイーハトーブ駅)で子どもの幽霊たちがつぶやく声が『春と修羅』の「青森挽歌」だったり、カルボナード火山で最後の任務に就くブドリの台詞が『銀河鉄道の夜』からの引用だったり、ブドリの夢や白昼夢に現れる幽界のイメージが「グスコーブドリの伝記」の先駆形「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」を想わせたり、宮沢賢治ファンに対する配慮も充分です。

小学生のブドリの声を小栗旬(左利き)が演じているのが最初違和感がありましたが、物語は彼の10~27歳を描いていますから、それもまあありかな、と。ちなみに原作に何度か書かれている「地震」という単語は映画には出てきません。イーハトーブ市街や大学の建築、クーボー博士の飛行船などメカニカルデザインは原作のイメージとは違いますが、レトロフューチャーな格好良さがあります。

宮沢賢治、ますむらひろし、杉井ギサブローの組み合わせということで、どうしても1985年の『銀河鉄道の夜』と比較してしまいます。別役実の脚本も素晴らしかったですが、いちばんの違いは音楽だと思います。小松亮太のノスタルジックなバンドネオンも悪くないのですが、『銀河鉄道の夜』のサウンドトラック盤細野晴臣が提示してみせたフルスケールでメタリックなのに人間の体温を強く感じさせる音楽は、27年経ったいまでもまったく古びていません。
 

2012年7月22日日曜日

TOKYO POEKET Vol.16

涼しい曇りの日曜日。両国へ。江戸東京博物館で開催された"第16回TOKYOポエケット"に、プリシラ・レーベルとして出店してきました。

TOKYOポエケットはいわば「詩のコミケ」。ヤリタミサコさん川江一二三さんというふたりの詩人が主催して1999年12月第1回を開催。当初は年2回、現在は毎夏恒例の詩集、詩誌の即売・交流会です。出版社も同人もフラットに、というポリシーはブース面積にも反映しています。

プリシラ・レーベルは、詩人佐藤わこ、カワグチタケシが1998年1月に立ち上げました。ポエトリー・リーディングのカセット・テープ制作からスタートして、ライブイベントを主催したり。現在はインディーズ出版とCD制作を中心に活動しています。ポリシーは「ホチキス留め詩集のトップブランドを目指して」(今決めた、笑)。何十万も出費しなくても、インクジェットプリンタとホチキス、それにちょっとしたアイデアと丁寧な手仕事さえあれば、クオリティの高い書籍を制作できる。それがプリシラのレジスタンスなのです!

TOKYOポエケットには1999年の初回から出店しています。昨年は残念ながら日程が合わず見合わせましたが、一昨年の様子はこちらで紹介しました。

今回は、三角みづ紀さん松岡宮さんという、ポエケット会場でも一、二を争う人気詩人のブースに挟まれるというベストポジションを得て、目標にはわずかに届かなかったものの、当社比過去最高売上を達成しました。主催のおふたりの粋な計らいに感謝。

僕の詩集やCDだけでなく、井上久美さんの画文集「NEW YORK SKY」、石渡紀美詩集上下巻も多くのお客様に手に取っていただきました。お買い上げいただいたお客様、立ち読み、試聴、おしゃべりしてくれた皆さん、近隣ブースの詩人のみんなに、ありがとうございます、と言いたいです。

今回はひとりの店番で来客が途切れず、他のブースを覗く余裕がなくて、不義理も多々。そのあたりは次回の課題としたいと思います!

 

2012年7月19日木曜日

Poemusica Vol.7

午前中はよく晴れていましたが、午後から曇って急に気温が下がりました。ライブのときは結構な荷物なので、涼しいのは助かります。そんな七月第三木曜日。下北沢Workshop Lounge SEED SHIPで"Poemusica Vol.7"が開催されました。

アカリノートさんはギター弾き語り。会うのはこの日が2度目です。井の頭公園で定期的にベンチライブを演っていて、この3日前の7月16日にも開催されることをTwitterで知り、同じく吉祥寺であったThe Xangosライブの前におじゃましました。よく晴れた夏の午後、木漏れ日の中にひろがる澄んだ歌声。気持ち良いひとときでした。その声がSEED SHIPのサウンドシステムを通すと、よりクリアに優しく響きます。動物に気持ちを投影した歌詞もロマンチック。

田野崎文さんはピアノ弾き語り。長身にインディゴブルーのワンピースが良く似合う。ショートカットのおでこをきりっと出して、裸足で歌います。和テイストを強く感じさせる北国の旋律。「その手でブルーのワンピース着せて/周りはあじさいでいっぱいにしてね」と自身の葬送を歌う「あじさい」など、良い意味で文学少女的な歌詞。実は2000メートル級にもがんがん登っちゃう山ガールなのですが、フィジカルな強さと文学性とをバランス良く持ち合わせた方なのだと思います。

アカリさんと文さんは同い年で、出身地が鹿児島と北海道。Little Woodyと僕は関東出身。そんな4人が今回はひとつのテーマを決めて作品を持ち寄りました。

先月Poemusica Vol.6を観に来てくださった文さんと終演後にそんな話になって、僕が持っていたファイルに自分で歌詞を翻訳したものがいくつか入っていたなかで、彼女が「これで」と決めたのが、The Bee-Geesの"Melody Fair"。映画『小さな恋のメロディ』の主題歌です。

ふたりのミュージシャンはこの歌詞を全く違うメロディに乗せてくれました。「人生は雨には似ていないよ/メリーゴーランドみたいなもの」と、高3文系男子が2年後輩の女子を爽やかに諭すみたいな(笑)アカリさん。「君は僕だけの女の子」と純愛仕立てのスローバラードにした文さん

Little Woodyは、この歌の少年性を純粋に抽出したような実写映像作品を作ってきてくれました。まぶしい日差し。踏切。田んぼのあぜ道。笹舟レース。ファンタオレンジ。ノスタルジックな色調が原曲に映えて、とても素敵でした。

僕も何かひと工夫と思い立って、前日にブレイク・ビーツを作りました。The Bee-Geesの原曲のアレンジは歌詞に合わせて、雨音をハンドクラップ、星座のまたたきをグロッケンシュピール(鉄琴)で表現しているのですが、そのハンドクラップ部分をループさせて。

同じテーマだからこそ、相違点と共通点が浮き彫りになる。作って演じている僕たちも楽しかったけれど、客席のみなさんにもその楽しさはお伝えできたのではないでしょうか。あとで聞いたらみんな前日か当日に作ったみたいで、まさに夏休みの宿題(笑)。でも、瞬発力っていうのは優れた表現者には欠かさざる素養なんだな、と。もちろん普段の積み上げあってのことと思いますが。

さて、次回Poemusica Vol.8は8月16日(木)にSEED SHIPにて開催。Little Woodyと僕。 河内結衣さん島崎智子さん、そしてVol.7につづいて田野崎文さんが出演します。平日だとなかなかね、という方でも、夏休みですので、この機会に是非。真夏の下北沢でお待ちしています!

2012年7月16日月曜日

The Xangos at ALVORADA

半月ぶりの更新。僕は元気です。東京の雨期はようやく明けたようですね。そんな海の日の夜。吉祥寺のランショネッチ(ポルトガル語で定食屋の意)ALVORADAへ。The Xangosのライブに行ってきました。

中央線沿いの雑居ビル。半地下のドアを開くと、海の家のようなプラスチックの椅子。天井にはサンパウロF.C.CRフラメンゴサントスF.C.のフラグ。ここは浜松かと見紛うばかり(笑)。5月にお会いしたときよりすっきり痩せて綺麗になったまえかわとも子さん(左利き)が豪快な笑顔で迎えてくれました。

オルタナ・ボッサとも形容されるThe Xangos。ノスタルジックでメローなブラジル音楽をベースにしながら、そんなことにはおかまいなしに逸脱しまくる中西文彦さんのギターは、ブルースに軸足を置いて革新的なロックンロールを創造していった初期The Rolling StonesにおけるBrian Jonesを思わせます。

ボーカルのまえかわとも子さんが、広い声域と5~6種類の声質を使い分け、自由奔放にメロディを紡いでいくさまは、生命そのもの。すこし天然の入ったチャーミングなMCと唄い出したときの神々しいまでのオーラのギャップ。

そして、七弦ギターとバンドリンでタイトかつ繊細かつパッショネートに、脇をがっちり固める尾花毅さん。この理想的なアンサンブルに、1970年代初期に関東学院大学セミナーハウスから発祥した湘南サブカルチャーのひとつの結実を見た思いです。枠にはまらない、なんてよく言いますが、枠にはまったアートがその枠をはみ出さずにはいられないときの爆発的な熱量にかなうものはないのかもしれない。なんて考えながら。

それでも3人の奏でるリズムは終始心地良く、それに身を委ね、眼の前でふつうに起こる化学反応にハッとしたり、甘いメロディにうっとりしたり。2曲のアンコールを含め全15曲を堪能しました。

フェイジョアーダ、フランゴ・コン・キアーボ、キビ、コシーニャと、料理はどれも美味しく、ビールがすすむ熱帯夜初日でした。