2024年3月10日日曜日

でんちゅうさん みつけたよ

快晴。浅草花やしきで開催されたでんちゅう組のインクルーシブ・パフォーミング・アーツ『でんちゅうさん みつけたよ』に行きました。

遊園地の入口で手渡されたプログラムに折り込まれた短冊状の紙。僕が受け取ったものには「星を[____]」と印刷されている。その空欄に好きな言葉を書いて回収箱に入れます。この時点で観客は言葉を意識し、傍観者から共謀者になる。

電飾を巻き付けた白い衣装で妖精のような出演者たちの中で極彩色のマダム・ボンジュール・ジャンジさんがひときわ艶やか。2000年前後に僕が現代舞踊の故黒沢美香さんのカンパニーの若手ダンサーたちとご一緒させていただいていたときぶりにご挨拶。彼女は希少な女性のドラァグクイーンです。主にゲイの男性が女性性を極限までデコラティブに表現するアートを女性の身体で体現するという、二周三周して説明不能な孤高を極めた心優しき人。

完全に日が落ちて、ピンク色の桜の花びら型イルミネーションでライトアップされた赤い橋の上で西田夏奈子さんが歌う今夜のために書かれた「夜の遊園地」を聾者である Sasa/Marieさんのサインポエトリーと新人Hソケリッサ! メンバーのダンスが支え、上層のテラスから向坂くじらさんが朗読で響きを加える。

3月初旬の夜の野外公演ですが、園内の随所に暖房設備があり、園内を移動しながらの鑑賞は寒さをそれほど感じません。しょうぼうずさんの拍手喝采なつかし大道芸ではジャグリングのキャッチャーに指名していただきました。ネオン管の大階段を背にシルエットを映したソケリッサ! はメンズアイドルばりの恰好良さ。パンダカーにくじらさんと乗ったクマガイユウヤさんのリリカルなギター。

最後は園内に常設されたステージへ導かれ、ジャンジさんが花やしきの歴史を字幕付きで紹介。黒船来航の1853年に江戸町人の観光スポットとして開設された植物園が、明治維新、関東大震災、東京大空襲、東日本大震災、激動を乗り越えた170年間。ジャンジさんの明るく端正な朗読が僕には平和の祈りに聞こえました。

そしてみんなが入口で書いた短冊を3人の詩人、カニエ・ナハさんケイコさん向坂くじらさんがエディットしホワイトボードに貼りつけていく。3~5枚の紙片が1行の短詩となり、その連なりが大きな詩篇となる。3人の詩人の声で再生される言葉たち。自分で書いた言葉は膨大な断片の中からでも自分の耳に届きやすいんだな、という発見もあり。僕の短冊は知らない誰かの言葉と素敵に繋がり「まだ見ぬ夢を叶えて/鳥になって/星を食べる」に。

グランドフィナーレはでんちゅう組の2つのオリジナル曲「夜の遊園地」と「でんちゅう組のテーマ」で聞こえる人も聞こえない人たちもみんなで楽しく賑やかに。あっという間の2時間に、上品で幸福な夢を見たような感触が残りました。

 

2024年3月6日水曜日

フレディ・マーキュリー The Show Must Go On

雨のち曇。池袋シネマ・ロサにてフィンレイ・ボールド監督作品『フレディ・マーキュリー The Show Must Go On』を鑑賞しました。

1946年9月5日に英領(当時)ザンジバルでゾロアスター教徒の家に生まれたファルーク・バルサラは1960年代にイギリスに渡り、その後ブライアン・メイ(Gt)、ロジャー・テイラー(Dr)らのバンドSMILEに加入。バンド名をQUEENに変えて、フレディ・マーキュリーと名乗る。

フレディの幼少期を回想する実妹カシミラから映画は始まります。音楽ライターのロージー・ホライド、TVキャスターのポール・ガンバッチーニ、写真家ミック・ロック、レコード会社A&Rポール・ワッツら、生前フレディと親交が深かった人たちのインタビューとQUEENのメンバーのTVインタビュー、各時代のMVとライブフッテージで構成されたドキュメンタリーフィルムです。

役者が演じた伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』を実話として補完する面はありますが、約50分という尺に新たなエピソードはほぼなく、当時のライブ映像もリマスターされておらず荒い。

オフステージはシャイで礼儀正しかったフレディがステージ上の人格に侵食されていった、と言うミック・ロック。放蕩な生活からHIVに感染し長い潜伏期間を経て発症したAIDSで弱っていく姿を語るポール・ガンバッチーニは思わず声を詰まらせる。周囲の人たちを楽しませることをいつも望んでいたチャーミングなフレディが誰からも愛されていたことが伝わってきます。

3曲を並行して書いていたが完成させられず、制作期限が迫って苦し紛れに1曲にした、という "Bohemian Rhapsody" 成立の逸話は、僕ははじめて聞きました。ザンドラ・ローズの衣装デザインは天才的だと思います。

 

2024年3月2日土曜日

Early Spring Homecoming

早春曇天。幡ヶ谷の名店 カフェ&ワイン jiccaにて、Pricilla Label presents "Early Spring Homecoming" を開催しました。ご来場のお客様、jiccaトリちゃん、ありがとうございました。

開演時間は午後3時半。おやつタイムのライブに特製のスイーツプレートを出してもらいました。

ざくろのチョコレートケーキは濃厚なカカオ風味の中に果実の酸味、カルダモンのバニラシャーベットのスパイシーな香りに、季節のフルーツが爽やかさと彩りを添える。jicca の提供するメニューはカジュアルですが、五感に訴える作品だといつも思います(開場前のランチタイムにいただいたクラムチャウダーも素晴らしかったです)。

石渡紀美さんとの二人会は2015年12月に同じjiccaで、紀美さんの『十三か月』と僕の『ultramarine』のWレコ発 "fall into winter" 以来。

紀美さんの一篇めは自作の「声」。次に僕の「」。どちらもソネットです。もう一篇僕の「風の生まれる場所」を「平和の詩」と言って朗読してくれたのですが、それが自作ながら目から鱗で。思えば出会った頃から彼女は、平和のために詩を書いている、と言っていました。その意味が二十数年経ってようやく理解できた気がします。

平和の対極に戦争を置いてそれを否定するような手法ではなく、日常を日常として送ること、それをつぶさに観察し描写することが彼女にとって平和の実現に近づく一歩めなのだと思います。例えば、湯を沸かす、洗濯物を取り込む、野菜を吟味するなどして。

僕のセットリストは以下5編です。

1. ナルシスの旅石渡紀美
4. 路上にまつわる断章 Fragments On The Road

短いインターバルを挟んで後半はトークと今回のライブのためにふたりで書いた「連詩:Early Spring Homecoming」を聴いてもらいました。毎年末にさいとういんこさんと巻く連詩が対話篇だとしたら、紀美さんとの連詩は共同でひとつの庭園を造り上げるような趣きがある。連数や行数、前の連とのリレーションなど、ある程度形式を決めて取り組んだのもその理由のひとつだと思います。書いている最中にはそういう話はしなかったので、トークでお互いの制作過程の手の内を明かしました。

jicca の雰囲気とも相まって、客席のみなさんが僕たちの声を集中して熱心に聴いてくださるのが伝わってきて、自然と熱が入る。アンケートでは、他の季節の連詩も聴きたい、というありがたいコメントもいただきました。実現できたらいいな、と思います。

 

2024年2月25日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージック

菜種梅雨。西武柳沢ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージックmandimimiさんの回に行きました。

2月25日は、ニャンニャンGOの日ということで、CAT LOVERであるmandimimiさんはグレンチェックのパススリーブに小花の刺繍で縁取られたセーラーカラー、胸元に猫の顔が大きく刺繍された衣装。

セットリストのコンセプトは "Back To The Basics"。サラ・マクラクラン(カナダ)、伊能静(台湾)、ダンカン・シーク(アメリカ)、デミアン・ライス(アイルランド)etc.. マルチカルチュラルな環境で育った彼女の音楽的ルーツは多様ですが、共通点があるとすれば「優しさ」だと思います。

それらのカバー曲も、思春期を過ごしたシアトルの曇天から短い夏の間だけ覗く深い青空を歌う1st EP "Unicorn Songbook: Journeys"のリード曲 "Sapphire Skies" も、最小限のピアノの装飾音とゆったりとしたテンポでアレンジされ、クリスティナ・アギレラも Jungkook (BTS) もララバイに昇華する。アルトの歌声の子音が柔らかく吹き抜けて、ノラバーの窓のすぐ近くを通過する路線バスが雨を跳ね上げる音と調和し心地良く響く。60分の本編は9曲。各曲にまつわるエピソードを交えた進行もゆったりです。

そしてインターバル。ノラバー店主ノラオンナさんの心づくし、2月のノラバー御膳は、ポテトサラダ、大根油あげ巻、たまごやき甘いの、つくねたれ、きんぴらごぼう、菜の花からし和え、かぼちゃそぼろあんかけ、ほうれんそうととうふのみそ汁、梅ごはん。隣り合った初対面同士でも会話が弾む味。

30分のインスタ配信ライブ「デザートミュージック」。一日の終わりまで記憶に残っている前夜の夢を楽曲にする新プロジェクトから、親友と巨大な猫が草原で踊る "Pocketz Waltz" は心あたたまる四分の三拍子。

固めのノラバープリンとバニラアイス、ノラさんが一杯ずつ淹れる香り高いノラバーブレンドコーヒーが提供されて、配信が終わり一息ついたmandimimiさんとみんなで夜が更けるのも忘れ賑やかに過ごしました。

僕も4/28(日)にノラバーで朗読します。1ヶ月前の3/28(木)9:00amから予約開始です。あらためてSNS等で告知しますので、ご覧いただけましたら幸いでございます。
 
 

2024年2月12日月曜日

3K16 3人のKによる朗読会 第16回

建国記念の日の振替休日。La'gent Hotel Shinjuku Kabukicho Crospot CAFE & BARで開催した『3K16 3人のKによる朗読会 第16回』に出演しました。

会場のCrospot CAFE & BARさんは新宿歌舞伎町のどん詰まり。つい先日非合法の客引きが複数摘発された大久保公園の真向いで、高い天井まで届く窓から冬の午後の柔らかい日差しが注ぎ、落ち着いた雰囲気がありますが、ガラス1枚隔てた外はワイルドサイドです。

4. CLASSIFIED CONVERSATIONS

2000年に初めて開催した小森岳史究極Q太郎カワグチタケシによる3K朗読会の25年目ということで、前半は2000年前後に書いた作品と当時よくカバーしていた詩を朗読しました。

続くQさんは新詩集『ガザの上にも月はのぼる/道へのオード』から。社会的政治的イシューと日常の関わりや隔たりがいつもQさんの創作の動機。それは我々3人に共通する点もあるのですが、そのウエイトや現れ方が異なり、都度変化する。「現代詩人の使命とは携帯電話を持たないことである」は、ジム・ジャームッシュの映画『パターソン』をモチーフにした詩で、前日のライブで同作にインスパイアされたマユルカさんの「箱庭」を聴いた僕の内部で響き合いました。

小森さんは、自作詩に田村隆一ウィリアム・ブレイクを引用し「ジェットに乗ってどっか行きてえ」的に粗野な語り口を敢えて使用した初期作品のイメージとはギャップのある文学性を隠し持っている。これも我々の共通点といえるかもしれません。小森さんがルー・リードをブレイクビーツに乗せたa tribe called questだとしたら、僕はモンキーズをサンプリングしたDe La Soulの側に立ちたい、という違いはあるにせよ。この日朗読した僕の詩にはスピッツ伊勢正三の引用が含まれています。

7. 幾千もの日の記憶(究極Q太郎)
8. こんな時にまで言葉を探すしかないのだろうか(小森岳史)
9. Judy Garland

後半はQさんと小森さんの25年前の作品と自身の最近作を朗読しました。傾き始めた冬の陽を浴びてバーの高いスツールから脚をぶらぶらさせチーズケーキを食べるみなさんの姿に幸せな気持ちになりました。

ご来場のお客様、会場をご提供いただいたCrospot CAFE&BARさん、音響機材を担当し会場設営・撤収をしてくださった藤本敏英さん、どうもありがとうございました。また地上のどこかで3K17を開催したいと思います。その際は皆様どうぞよろしくお願いいたします。


2024年2月11日日曜日

ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージック

建国記念の日。西武柳沢ノラバー日曜生うたコンサート&デザートミュージックマユルカとカナコの回に行きました。

日中よく晴れて2月としては暖かな夕方。カナコさん鼻笛をフィーチャーした 「3am」 からライブはスタートしました。続く「覚悟の森」ではフクロウの鳴き声を鼻笛で真似ています。僕はこの曲に真昼でも鬱蒼とした森をイメージしていたのですが、深夜の森を前に立ちつくすという解釈もありですね。

この日のドレスコードはネイビー。客席の落ち着いた色合いも作用していたのかもしれません。続く「ほんとうのこと」「チャイム」は1stアルバムから。マユルカさんの淡々としたメロディに控えめに添えるカナコさんのコーラスが美しい。

「日曜の夜はいつも何から逃げるのか、向かうのかわからないまま歌い出すんだ君は、やになっちゃうな」と歌う「日曜日」。まさに日曜の夜に。ドロップDのブロックは「箱庭」に続き、セットリストの前半で歌うことの多い「出発」をいつになくスローなイントロで本編最終曲に。

ミニマルで落ち着いたテイストのマユルカさんの音楽にカナコさんの鼻笛、ヴァイオリン、コーラスで色彩と奥行きが加わります。ヴァイオリンのレガートやピチカートはあくまで品良く。大学の先輩であるカナコさんが、後輩マユルカさんの音楽を尊重しつつ、内在するユーモアやハーモニーを表に引き出す役割をしています。

ノラバー店主ノラオンナさんの丁寧な手仕事とアイデアの詰まった2月のノラバー御膳を出演者と観客みんなでおいしくいただくあいだも笑いが絶えません。

インスタ配信ライブのデザートミュージックは「きこえる」で再開しました。定員7名という少人数予約制ならでは「あの人はこの曲かな、と考えて作るオーダーメイドのライブ」というマユルカさんのMCに深くうなづく。2曲のカバー演奏は思い切りはっちゃけて、最後の最後は「アネモネ」でしっとり締める。起承転結のあるいいライブでした。

僕も4/28(日)にノラバーで朗読させていただきます。昨年12月から各所で出演した5ヶ月連続ライブのしめくくりです。1ヶ月前の3/28(木)9:00amから予約開始となりますので、あらためてSNS等の告知をご覧いただけましたら幸いでございます。


2024年2月10日土曜日

レディ加賀

薄曇り。新宿ピカデリー雑賀俊朗監督作品『レディ加賀』を観ました。

主人公樋口由香(小芝風花)は売れないタップダンサー。上京して8年がんばったが、仕事といえばスタンドイン(代役)ばかり。老舗旅館の女将を務める母(檀れい)が倒れたと仲居頭からの報に、北陸新幹線に乗ると隣席の観光プランナーの花澤譲司(森崎ウィン)から缶ビールを勧められる。加賀温泉駅に着く頃には、由香はまともに歩けないほど酔っぱらってしまった。

都会で挫折した主人公が一念発起して若女将たちのタップダンスチームを作り、その過程で見舞われるトラブルや親子の確執を解決して、傾いた温泉街の再興に奮闘する。町おこし映画のテンプレートをしっかりなぞったストーリーですが、プロットがことごとくユルいです。

まず温泉街が寂れて見えない。由香の実家である旅館ひぐちも幼馴染あゆみ(松田るか)が若女将のいしざきも、団体も個人もそこそこ予約が入っており、庭園や旅館も手入れが行き届いている。由香がダンサーを諦め女将業に天職を見出す過程が描かれていない。タップダンスチームを編成するのはジョー(花澤譲司)の思い付きだが、途中から若女将たちがみんなで決めたことにすり替わっている。

と万事そんな具合なのですが、そういうユルさも含めてご当地ムービーとして僕は楽しめました。最初は気乗りしなかったメンバーたちが徐々にのめり込んでいく様は『シコふんじゃった』や『スウィングガールズ』みたいな青春感があるし、ラストの花火のシーンはいろいろを帳消しにして感動を誘います。大御所なのにカメオ的な篠井英介さんは地元出身なんですね。撮影後ですが、能登半島地震の影響もある加賀が舞台で、劇場収益の一部が石川県に義援金として寄付されます。

なにより主演の小芝風花さんが一所懸命です。出づっぱりで心配になるぐらいですが、最近作では『波よ聞いてくれ』と『あきない世傳 金と銀』の途轍もない振れ幅。今回の役柄はちょうどその真ん中あたりの感じです。